あまりに美しすぎた、ヴィーンの至宝。

「わたしはこの街で生まれ、この街で育ち、この街で名誉を得た。世界最大の音楽都市──ここで生まれる音こそが、わたしの音であり、世界に冠たる皇帝の音なのだ」

Boesendorfer

誕生日/1828年7月25日 身長/186cm

好きな食べ物/チョコレート、生クリーム、コーヒー

 


 

 かつてはハプスブルク家御用達の指定を受けていた、由緒正しき老舗メーカー。そのしっかりとした楽器が生み出す豊かな倍音と繊細な音色は、フォルティシモからピアニシモまでホール中に染みわたるよう響く。フラッグシップのフルコンサートグランド「インペリアル」に代表される低音部の追加鍵盤がもたらす響きと情報量は、他メーカーとは一線を画している。

 

 ハプスブルク家に仕え、揺るがぬ名声の下にあったためか、どこか世間知らずの貴族のようだ。戦後は一時アメリカ資本となったり、その後オーストリアの銀行に買い戻されたりと、資本を揺れ動いている。経営や世俗のことに疎く、古くからの製法や素材に対するこだわりを捨てられず連続赤字に陥った。折悪しく同時期に経営難となった株主の銀行から「不採算企業」と誹られ、真っ先に身売りリストに載る憂き目を見ている。その窮地を救ったのが、彼にとっては東洋の馬の骨、ヤマハだった。現在はヤマハの圧倒的な資本力のもとに、環境も製法も変えることなく伸び伸びと伝統のピアノづくりを守り続けている。

 

 「インペリアル」に相応しく、大柄で力強い体格に彫りが深く意志の強い顔立ち。堂々とした立ち姿は、一度見たら忘れられないほどの強い印象を残すだろう。古き良き時代の雰囲気を纏った古風な見た目で堂々としているが、実はかなりの天然ボケ。世間知らずの貴族らしいある種の純粋さで周りを振り回すことも。自分のやり方に拘る頑固さを持ち、一度思い込むと人の話を聞かないなど、ヤマハですら扱いに手を焼く難しい一面もある。

 

・古くはリスト、ブゾーニといった超級ピアニストとの付き合いが深かった。「インペリアル」のエクストラ鍵盤はブゾーニのアイデア。現在の仲良し、アンドラーシュ・シフが変なところに突き上げ棒(グランドピアノの大屋根を開くための支え棒。棒は長さ別に3本あり、それぞれ立てる穴が決まっている)を立てたがるのが目下の悩み。

 

・ヤマハからは身請け時に、株主に払う身請金1400万ユーロ(一説によれば1500万ユーロ。公式には非公開。日本円換算は年表を参照)の支払いの他、当面の運転資金として与えられた現金400万ユーロを受け取った上、さらに銀行債務890万ユーロのヤマハによる一括弁済と、リースアンドセールバックで所有権が移転していた工場の土地建物の買戻しを受けている。しかも(ベーゼンドルファー本人の争点であった)ヴィーンでの操業を確約。愛されすぎである。しかし本人には「買われた」という自覚がなく、「ヤマハ?」と声を掛けると察して何でも世話をしてくれる便利な侍従ができたと思っていそうだ。